はじめに

C-Media社のCM102というICがあります。AUDIO-OPT-USBとかAUDIOJACK-USBとかMM-SPU1とかMM-SPU2などに採用されており、要するに、低価格USBサウンドモジュールの定番チップです。今まで、どうせ価格相応の低品質チップだろうと思って見向きもしませんでしたが、共立エレショップで通販で購入できることを知り、気になったので購入してみました。

USBサウンドチップとしては、バーブラウンのPCM2702が有名で、キットもありますが、そのような高級チップは、今回は相手にしません。

CM102

実験

早速動かしてみます。まずはブレッドボード上で配線してみました。

ブレッドボード

たったこれだけの回路で、USBに接続して音楽を再生できるのです。我ながらびっくりします。

CM102以外に必要なものは、12MHzのクロックと、出力のカップリングコンデンサ、コネクタ類くらいのものです。CM102はアンプを内蔵しているので、外部アンプ無しにヘッドフォンや小型スピーカを駆動できてしまいます。

最初に動作させるために、若干のトラブルに見舞われましたので、参考までに書いておきます。

初めて聴いてみた印象としては、明るく元気な音という感じです。低音高音ともに過不足なく出ています。繊細さに足りませんが、解像度は程々に高く不満はありません。音場表現も充分です。ただしそのままでは、音楽の再生中に、音量が不安定に変化することがあり、設定の変更が必要です(後述)

製作

小型サウンドボックス

そこそこ使い物になることがわかったので、基板場に配線し、ケースに入れてみました。

外観内部

配線図

電源周りの配線にちょっと自信がありませんが、とりあえず鳴っています。

カップリングコンデンサは、ヘッドフォンやスピーカーを鳴らすなら330μF程度欲しいですが、ライン出力として外部アンプで鳴らすことにしたので、2.2μFのフィルムコンデンサを使用しました。

データシートの回路例には、出力回路にローパスフィルターのようなものが入っているようですが、よくわからなかったので省略しました。もしかすると、ちゃんと設計すれば、高音の堅さが緩和できるのかもしれません。

ヘッドフォンアンプ付サウンドボックス

あとひとつ、ヘッドフォンアンプと一体化したものを作りました。

外観基板

CM102はアンプを内蔵しているので、本来は外部アンプは不要です。二重にアンプを通過することになるため、論理的には無駄なのですが、こうすることで、CM102が持つ音の荒っぽさが軽減できました。また、アナログ回路は乾電池駆動となっており、デジタル/アナログ電源を分離しています。

ヘッドフォンアンプ部は、自作派にはおなじみのSAITAMA-HA7を参考にしました。

DRC機能

基本的な音質は、値段のわりには優秀だと思うのですが、初期設定では音量が歪んだ感じがします。たとえば、大音量のバスドラムとなめらかな弦楽器が同時に鳴るような楽曲では、弦楽器の音がバスドラムによって、揺さぶられるように、音量がずれて聞こえたり、ボーカルなどは、定位が不安定になったり、前後の距離感がぶれて聞こえてしまいます。

CM102のデータシートを読むと、「DYNAMIC RANGE CONTROL (DRC)」という項目があって、嫌な予感がします。しかも default ON setting だそうです。要するにこれはイコライザの一種で、入力音量の変化に応じて、リアルタイムに音量を調整する機能らしいです。この機能は何のためにあるのでしょう。ひょっとしたら、小型スピーカを鳴らすようなときに効果があるのかも知れません。少なくとも、まともなオーディオ機器につないで再生する場合には、百害あって一利無しですので、CM102の音質を正しく評価するためには、最低限DRC機能をオフにする必要があります。

Windowsの場合

ボリュームコントロールの詳細設定で変更することができます。
  1. ボリュームコントロールを開く
  2. 「オプション」→「トーン調整」を選択
  3. 「トーン」ボタンを押す
  4. 「ラウドネス(Loudness)」のチェックマークを外す

ボリュームコントロールボリュームコントロールボリュームコントロール

※ボリュームコントロールが縮小表示モードになっていると、トーン調整のメニューが選べなくなっています。その場合は Ctrl+S を押して、標準表示モードに戻してください。

余談ですが、コマンドラインから sndvol32 /s や sndvol32 -s を実行すると縮小表示モード、 sndvol32 !s や sndvol32 +s だと、標準表示モードになるみたいです。メニューから選べないのは不親切ですね。

Linuxの場合

CM102の接続直後は、なぜか右側からしか音が鳴りません。いちどPCM出力もミュート状態にしてから戻すと良いようです。

コマンドラインから、

amixer -c 0 set PCM off
amixer -c 0 set Loudness off
amixer -c 0 set PCM 100%
amixer -c 0 set PCM on

のように実行します。

音質

USB音源の宣伝に良くある文句として、「コンピュータの内部のノイズに影響しないクリアな音質」というものがあります。このチップの場合「サー」というノイズは、あまり気にならないのですが、ハードディスクのアクセス音や、マウスの移動や画面表示時に「ブツブツ」というノイズが入ることがあります。挿すコネクタによってもノイズの乗り方が異なります。PCのマザーボードやグラフィックカード等の設計にも影響するのかも知れません。

音の印象は、張りのあるとても元気な音です。迫力や勢いはいいのですが、それが裏目に出ることがあります。小編成の演奏の時は、楽器ひとつひとつに存在感があるのに、多数の楽器が一斉に鳴っているような演奏では、騒がしく聞こえたりします。特に、CM102内蔵アンプで、直接ヘッドフォンを駆動する場合にその傾向が強く、できれば、別途ヘッドフォンアンプを介して(音を鈍らせて!?)聞いた方が、耳当たりが良くなります。

チップの値段に反して、間接音や楽器のディテールのような、微少信号の再生は得意なようです。定位も良く、遠近感や音場表現は良いです。少なくとも、10,000円クラスのUW10より高音質です。また、CDプレーヤーとデジタルケーブルで接続したDr.DACよりも、聴いていて楽しいです。この点ではCM102は普及機クラスのCDプレーヤー以上の音質かもしれません。

低音の量感はまあまあ。高音はワイドではありませんが、違和感ない程度には出ており、うまくまとまっている感じです。ただし、もう少し、高音に爽やかさと優しさが欲しいように感じました。

感想

PCM2702のような高級チップを既に持っている方にとっては無用の長物かもしれません。そうでなくて気軽に自作を楽しみたい人にとっては遊べるチップだと思います。コストパフォーマンスはとても良いです。

最後に、念を押しておきますが、DRC機能は必ずオフにしてから聴きましょう。
(音質劣化機能をデフォルトでオンにするなボケ!)